お知らせ
2023/12/22
2023年10月22日(日)ブックファースト新宿店にて「瓜を破る」8巻発売を記念した、著者・板倉梓さんのトークショーが開催されました。
事前に参加者から寄せられた質問に板倉さんが答えるトークショーの内容をほぼ網羅したアーカイブ記事その3を公開します!
トークショーレポその1はこちら
トークショーレポその2はこちら
Q.18:久が原や五反田など東急線沿いの駅名が出てきますが、ここを選んだ理由を教えてください。また、作品の聖地巡りでおすすめの場所は?
板倉:これは先ほどの、市井(しせい)の人々のノンフィクションが好きっていうところに通じてると思うのですが、私は人の生活感みたいなものが大好きなんです。
高架の電車から人の家の窓とかチラチラと見えるじゃないですか。
ああいうのを見るのが好きで、漫画でもそういうキャラの住んでいる部屋だったり街だったりを細かく設定して、本当にいそう、というリアルな生活感を出したいんです。
そこには自分でも気持ち悪いくらいのこだわりを持って描いてますね。
まい子と鍵谷が東急線沿いに住んでいるのは、私自身が東京の東側に住んでいて、駅ごとのなんとなくのイメージも分かるため、リアルな手触りで描けると思ったから。
吉祥寺や新宿とか、他の漫画にもたくさん出てきてイメージがもうついちゃってるとこじゃないほうがいいと思って。
五反田でデートする漫画って他ではあまり見ないので、してやったりというか(笑)、そこをみなさんに「こんなマイナーな駅を舞台に!?」とか喜んでもらえるので、すごく嬉しいですね。
とはいえ漫画なので、虚実は織り交ぜています。五反田に作中のモデルのファストフード店はもうないし(※後日別の場所に新たにできたと判明…)、辻󠄀と味園が仲直りした土手は丸子橋(多摩川にかかる橋)の近くですが、二人の最寄り駅の二子玉川からは離れていたりね。
お店なども特に許可を取っているわけではないので、地名以外はこう、薄目で見ていただいて…その上で作中の舞台巡りとか楽しんでもらえたらと。
ということで今回は、私のおすすめの作中舞台4選をご紹介します。
ひとつ目はまい子が家に鍵谷を誘うJR五反田駅西口。
駅前なので行けばすぐにこの場所が分かると思います。
2つ目は、長瀞デートの帰りの目黒駅改札口。
鍵谷は山手線、まい子は目黒線へと分かれる場所ですが、急遽鍵谷の家に行くことになったシーンです。
私、ここでしゃがんでローアングルで写真を撮りまくったので、ヘンな目で見られたと思います(笑)。
3つ目が映画デートの待ち合わせ場所、JR有楽町駅中央西口です。
二人が別れるシーンは駅の反対側なのですが、最近行ったらもう看板などが変わっていて、「街も生物(ナマモノ)だな」と。
ビックカメラ側のこちらは変わっていないのでおすすめです。
4つ目は映画デートで一度解散した二人が偶然出会う日比谷公園です。
背景のビルを頼りにだいたいの場所が分かると思うので、散歩がてら行ってみてください。
Q.19:まい子の地元は長野のどのあたりですか? 鍵谷の実家も埼玉のどこなのか気になっています。
板倉:二人の細かい出身地は今回初めて明かす情報です。
まい子は長野県の池田町、鍵谷は高崎線沿線の上尾です。
上尾には団地があり知人が住んでいるので、団地いいなと思って。
実家が標高600mのまい子と対象的に、鍵谷はまったいらな関東平野で生まれ育ちました。
Q.20:かわいい絵柄に癒やされています。色っぽい描写があるのに、エロく見えないので抵抗なく読めて友人にも薦めやすいです。キスシーンや濡れ場を描くときのこだわりはありますか?
板倉:過激なだけのエロではないというところを褒めてくださってるのはわかるのでとても嬉しい、人に薦めやすいというのも嬉しい、のですが…。
自分としてはめちゃめちゃエロく描いているつもり、なのです!
ですから「エロい」という感想は大歓迎ですし、もし「エロいと言われたくないかも?」と気を使ってくださってるんだったらそんなことは全然ないので言ってください(笑)。
とはいえ気をつけていることはあって、エッチなシーンでは品をなくさないように心がけています。
擬音を最小限にする、表情や仕草が扇情的であっても汚く見えないようにする、など。
あとやっぱりリアルさですね。
エッチな漫画ってみなさんもわりと読むと思いますが、セオリーが結構あって。
でも瓜ではそういうセオリーにはあまり捉われず、現実の人間同士がこういう状況になったら、こういうことは言葉にして言わないかな、ということはセリフにせずモノローグにとどめるですとか。
あと常にこだわりとしてあるのは、まい子にも攻めて欲しいということですね。
対等でいてほしいって言うと意味が出過ぎちゃうんですが、まい子もしたいからしてる、ということが伝わるといいなと。
攻守交代してほしい、ギブ&テイクであってほしいなと思ってそこを描いてます。
Q.21:お気に入りのセリフはありますか?
板倉:これは難しくて、やっぱり全てのセリフにこだわりを持って描いてるので、私には選べないなと思いました。
ですので今回は読者の方に人気のセリフから2つご紹介したいと思います。
だぼだぼのシーンですね。
打ち合わせで6巻のラストをこのシーンにする、と決めた結果、担当編集Мさんと「だぼだぼにする? ぶかぶかにする?」「カタカナとひらがなとどっちがいいかな!」とかなり盛り上がりました(笑)。
みなさんが好きと言ってくれるので好きなセリフです。
そして鍵谷の告白シーンですね。
このセリフはちょっと苦戦しました。
「付き合ってくれ」って自信がないと言えない言葉だと思うんです。
でもそこで鍵谷が変に見栄を張らず、自信がないなりに「付き合ってほしい」ということを率直に伝えているセリフになったかなと思います。
このあとの「冴えない家を見られたくなかった」というセリフも、初めはカタカナで「サエない」としていたんですが、Мさんが「鍵谷だから漢字がよくないですか?」と。
漫画は字面も大切なので、そのほうが鍵谷の知性が垣間見えるかなと思い漢字にしたりとか、そういうところもこだわって考えてますね。
Q.22:線の引き方など絵を描く際に気にしていることはありますか?
板倉:キャラ絵の見やすさですね。小さいコマは書き込み過ぎず、大きいコマは細かく書き込んで、メリハリをつけて読みやすくしています。
あとは丁寧に描くことかな。
手の動きなんかもなにげにすごく表情が出るなと思って、こだわって描いています。
まい子の手も鍵谷の手も自分の手をモデルにして描いてます、私の手はけっこうゴツいので、これをさらにゴツくすると鍵谷で、華奢にするとまい子の手になります。
このシーンの鍵谷とまい子の手は、自分の手でそれぞれのポーズをしスマホで撮って見ながら描きました。
読者のみなさんがそういう細部までじっくり見てくれるので嬉しいですね。
Mさんがよく「絵は読者さんに育てられるもの」と言うのですが本当にその通りで、読んでもらえることがモチベーションになっています。
Q.23:キャラクターの悪い面と良い面の塩梅がちょうど良くて憎めない愛らしさがあります。キャラクターが悪役にならないよう気をつけている表現方法はありますか?
板倉:何をモノローグで思って、その中の何を相手に言うか、ということに気をつけて描いています。
たとえば小平さんって、読者の方に嫌われがちなのがちょっと悲しいんですが、彼女が人をジャッジするのは心の中だけであって、面と向かって「あなたナイトプール系ですよね」とかは絶対言わないんです。
みんなこういうこと、心の中だけなら思ったりしてるんじゃないかな?って思います。
なので「ああ、ここは口に出しては言ってないんだ」ってところで、みんな共感できるキャラになってるのかなと思います。
まい子と電車でおしゃべりするこのシーンも、「ミスドで働いてたんですか? ははは」しか言ってなくて、基本ニコニコしていますよね。
まい子も小平さんに対して内心では「ちょいちょいリアクションしにくいな」と思ってますし、そういうリアルな人間の空気の読み合いというか。でもそれって別に無理してるわけじゃなくみんな自然に、社会にいて当たり前にやってることですから、そこを考えて描くようにしていますね。
Q.24:笹団子Tシャツ、グッズ化されませんか?
(編集部注:トークショー開始時から会場に置かれていた謎のテーブル。
布を取るとそこにはたくさんの「瓜を破る」グッズが。
スタッフや書店員さんも笹団子Tシャツを着て登場し、大きな拍手が起こりました)
板倉:笹団子Tシャツ、ヴィレッジヴァンガードさんとのコラボで作りました(笑)!
(編集部注:限定グッズの受注販売期間は終了しております)
いろんなグッズがありますが、やっぱり作中の人と同じ格好ができるグッズって一番嬉しいかなと思って。
ぜひ、鍵谷と同じ格好をして楽しんでください。
Q.25:7巻の47話で鍵谷くんがまい子の家に泊まった翌日が描かれていませんが、二人はどんな土曜日を過ごしましたか? 朝もイチャイチャしなかったのでしょうか?
板倉:そこやっぱり気になりますよね(笑)。
実はこの雑誌表紙イラストはその翌日をイメージして描きました。
あの夜、鍵谷はなかなか寝つけなかったので、朝は遅くに起きたと思います。
まい子は鍵谷が泊まりにくるので一応適当なパンに何かを挟んでサンドイッチぐらいは用意したかなと。
で、生理でできないので家の中にいてそういう雰囲気になってもお互い困るので、外に出かけようということになり、玄関先でだけキスをした。
というのがこのシーンです。
アクリルスタンドとしてグッズ化したイラストはそのデート風景です、この服装でデートをしました。
まい子の家の近くの多摩川沿いを散歩して、夕飯を食べて別れた一日を想像していただければと思います。
12/29(金)12:00公開予定のトークショーレポその4に続く
テキスト/中島夕子