• トップ
  • お知らせ
  • 「瓜を破る」を語ろう 著者・板倉梓さんトークショーレポ その1

お知らせ

「瓜を破る」を語ろう 著者・板倉梓さんトークショーレポ その1

2023/12/08

  • 企画

2023年10月22日(日)ブックファースト新宿店にて
「瓜を破る」8巻発売を記念した、著者・板倉梓さんのトークショーが開催。
板倉さんと担当編集者が登場し、当日参加した約45名の方から事前に寄せられたすべての質問に板倉さんが答える形式で、制作秘話からキャラクターの意外な裏話披露、待望のグッズ化の発表まで、濃密な2時間でした。

今回のイベントは非常に多くの方からご応募をいただき、なんと抽選倍率は6.5倍。
残念ながら出席できなかった方にも楽しんでいただきたいと、トークショーの内容をほぼ網羅したアーカイブ記事を4分割してお届けします。
2時間しゃべり通しだった会場の熱気を超ボリュームでそのままお伝えしますので、ぜひご堪能ください。

(会場には8巻の色校正も展示されました)

板倉 梓(Itakura Azusa)プロフィール
1月11日生まれ、長野県出身東京都在住。
2008年デビュー、青年誌を中心に活動中。
「あかつきの教室」「タオの城」(芳文社)など既刊多数。
【公式Xアカウント】@wattstower

【性体験を通して人と心をぶつけ合う冒険を描きたかった】

Q.1:30代処女がテーマの作品を描こうと思ったきっかけは?

板倉:ここにいる「瓜を破る」の担当編集Мさんは、私が2008年に漫画家デビューしたときの担当さんで、デビュー後に何作か一緒に作った後、しばらくは仕事はしてなかったんです。
でもプライベートではオタク友達というか、同じ作品にハマって二人でイベントに行くなどしており、そのときに同い年の女性同士、自分のキャリアステージですとか、社会への目線や価値観など、いろいろな話をしていました。
そんなMさんがコロナ禍が始まった頃に久々に一緒に仕事しませんかと連絡をくれたんです。

そのときの依頼が「女性の主人公で、女性の内面を描く作品を描きませんか?」というものだったので、ああ、プライベートでしていた話を漫画で活かしてはどうか、と提案してくれたのかなと思いました。
私はそれまでは主に男性向け漫画をずっと描いてきましたが、この年齢になりいろいろ経験してきたことで、だんだんと自分の持っている価値観と、描いている作品との乖離(かいり)を感じていました。
もう少し自分の今持っている価値観を活かせる作品を描きたいと思っていたタイミングでのオファーでした。

Мさんは企画書を作ってきてくれて、いくつかの女性像が書いてあり、その中に「ある程度の年齢だが性体験のない女性」も書かれていて、これはいいな、と思いました。
「人生経験はそれなりに積んでいるのに、ひとつだけどうしても手に入れられないものがある」というのは性体験に限らず共感を呼ぶだろうと思ったし、物語にしやすいと思ったからです。

また、これまでも私は「性」を扱う漫画を好きでずっと描いてきて、それをもう少し真剣にやりたいな、というのもあったので、「これにします!」とその場で即決でした。
他にも企画書には「タワマンママ」とか「不倫」なんかもあり(笑)、そのへんはあまりピンと来なかった覚えがありますね。

Q.2:他の登場人物のストーリーも描かれるオムニバス形式にしたのはなぜですか?

板倉:もうご存じない方もいるかもしれませんが「瓜を破る」の第1話は読み切りとして単体で発表されたものなんです。
その読み切りがありがたいことに好評だったので連載にしようという話になりました。
連載が決まったとき、いろんな女性が主人公として登場するオムニバス形式にしようと考えていたら、Мさんが「まい子を主人公にしつつ、いろんな女性が出てくる群像劇でいきましょう」と言ってきたんですね。
私はまい子の物語は一旦終わった気になっていたのでちょっと驚きましたが、読み切りでは良いキャラとして描けていたし、まだ性体験も手に入れてなかったので、それを目指していく物語にしつつ、自分の今の価値観が活かせるいろんな女性を描けるのはいいなと思いました。
周りの人たちとまい子が少しずつ絡んでいけば物語にも厚みが出るのでは?と考えました。

もし、まい子が鍵谷とだけやりとりしている物語だったら、読者のみなさんにここまで共感してもらえなかったんじゃないかと思います。
会社でのまい子、理乃といるときのまい子、鍵谷といるときのまい子は話し方も少しずつ違う。
他のキャラもみんなそうです。
みなさんも生きていてそういう経験がたくさんあると思いますが、人には相手によって見せたり見せなかったり、ここは誰にも見せない、などいろんな面があるもの。
そういう社会での人間のリアルさを描きたいと思っています。

このへんは結果論なのかもしれませんが、たとえば物がない鍵谷の部屋が切なく映るのも、沢さんの部屋や塚田の部屋を見た後だから。

サブリミナル的に挟み込まれる他のエピソードがあるからこそ、まい子と鍵谷のエピソードもリアルに感じられるんだと思います。
ですからたまに「まい子と鍵谷の話ばっかり読みたい」て言われちゃうこともあるんですけど、もう一度みなさんにもそのへんを感じながら読んでもらえたら嬉しいです。

Q.3:性を率直に扱う稀有な作品だと思います。なぜこのような作品を描こうと思ったのでしょうか?

板倉:性に関してはこの作品では本当にリアルに描こうという決意で始めました。
まい子は人との距離がゼロになることが想像できず、心と心をぶつけ合うことをしてこなかった人間です。
そんなまい子が性体験を通して、初めて人と心をぶつけ合うのを冒険として描きたかった。
鍵谷にとってもそうですね。だからこそ、性体験というものを茶化したりごまかしたりせず、でもちゃんとエロく描きたかった。

性体験にそこまでのハードルがない人ももちろんいると思いますが、まい子と鍵谷にとっての性体験はそうではなくて、すごく恥ずかしく、必死で、特別で、切なくて、素敵なことにしたかったので、丸々1巻分を使ってじっくり描きました。
「自分もこういう初体験が良かったな」と思ってもらいたいし、まだの人には「いつかこういう初体験をしたいな」と思ってもらえたらいいなと思って、かっこ悪いところも含めて真面目に、エロく、描いたつもりです。

Q.4:ズバリ、なぜこのド直球なタイトルなんですか?

板倉:これは私から皆さんに聞いてみたいんですが、この「破瓜(はか)」という言葉の意味を知っていた人いますか?
(参加者の多くが挙手)。
みなさんエッチですねえ(笑)。
このタイトルはMさんがつけてくれました。
私はそのときに初めて「破瓜」という言葉を知ったんですが、これが「処女喪失」を意味する言葉だと知った上でもそれを動詞にしたこの「瓜を破る」というタイトルは、文学的な香りがしておしゃれだなと思いました。
「舟を編む」みたいでしょう(笑)。

「破る」という言い方は能動的な感じもあるし、「自分の殻を破る」という意味も込められるな、と思って裏テーマにもしています。
お気に入りのタイトルですので、みなさんもあまり恥ずかしがらずに口に出していってくれたら嬉しいです。

【すべてのキャラに自分自身の経験や要素が散りばめられている】

Q.5:登場人物の考え方や背景に質感があり、実在しているようなリアリティを感じます。先生の周りの人をモデルにしているのですか? 心情描写で描くのに苦労した人はいますか?

板倉:これは本当によく聞かれるのですが、特定のモデルというのはいないんです。
自分の中にかつてあった感情や今ある感情、外に出さない感情、あとは周りの人の言動や振る舞いをさまざまな角度から見て、「内心もしかしたらこう考えてるかも」「強気に見えるけど夜は一人で泣いたりしてるかも」とかを想像して描いています。
そういうことを想像するのが本当に大好きなんですよね。

私には小学生の娘がいるんですが、保育園時代のママ友たちとの出会いも作品に活きています。
私はずっとグラフィックデザイナーや漫画家といういわゆるクリエイティブ系の仕事をしていて、周りはかなり自己顕示欲の強い人が多かったんです。
でもクラスのママ友みんなと仲良くなって…ママ友って、世間一般のイメージで、そういう漫画もあったりするし(笑)、ギスギスしてんじゃないのみたいに思われがちなんですけど、みんな本当にいい人たちで、私はその人たちのことがすごく好きだったんです。

それぞれ真面目に仕事をし、子育てもしながら夢中になっている趣味がある人もいて。
そして「有名になりたい」ということではない、それぞれの欲がちゃんとあり、悩みながら、毎日を懸命に生きている。
でもその人たちももちろん私に全部を見せてくれるわけではないので、そういう人の気持ちをすごく考えるようになりました。
そういった市井(しせい)の人々を描くノンフィクションが昔から好きで、突出した何かを持っている人ではない人たちの物語をずっと描きたかったというのもあります。

さすがに、辻みたいなマウントタイプはママ友にはいなかったけど、彼女みたいなキャラは自分が20代だったら絶対に描けなかったキャラです。
こういう人も実はこう思ってるかも、って今は想像できるようになったので。

俳優さんが役に憑依するように、キャラになりきって描くのは楽しい作業なので、描くのに苦労することはないですね。
鍵谷でさえ内面を描くのに苦労したことはないです。
沢さんは自分のインテリアの趣味も投影させているし、気も強くて、私が今の人生じゃなかったらなりたいルートかもしれません。
そういった自分の理想なんかも入れつつ、それぞれのキャラを描いています。

Q.6:先生が自分に似ていると思うキャラ、一番好きなキャラは誰ですか? また、キャラの趣味やエピソードなど先生自身の体験に基づいたものはありますか?

板倉:そんな感じでどのキャラにも自分の要素は入っているのですが、一番似ているなと思うのは…染井さんですね。
ちょっと口が悪いでしょう。
あと明るい陰キャのワーママで、夫と娘という家族構成も一緒。
「子育てエッセイ漫画は描かないの?」と言われたり、保育園からの呼び出しや奈良旅行も私自身のエピソードです。

小平さんが音楽好きなのは、まんまクラブで遊んでいた20代の頃の私ですね。
ケイタくんの部屋はクラブ友達の男の子の部屋そのまま。
一生懸命思い出しながら描きました。
私の彼氏ではないです(笑)。

この目黒駅のホームでのシーンですが、まい子と鍵谷目線でのシーンを描くときは鍵谷とまい子になりきっているので彼らの気持ちになって描くんですが、小平さん目線を描くときは小平さんになりきるので、「まい子と鍵谷め、キラキラしやがって…」と思いながら描いてました(笑)。

どのキャラにも多かれ少なかれ自分の要素が入っている、というのはそういうことですね。
一番好きなキャラはまい子です。
コミカルで知性もあるリアルな大人の女性で、やっぱりこの漫画の主人公だなって思います。

今までの私の漫画の作り方だともうちょっとケレン味というか、例えば「暴走キャラ」みたいなタグ付けをしてたと思うんですが、まい子にはそういうのを一切していません。
最初の設定では「性体験がないこと」と「穏やかな性格」くらいしか決めてなくて、物語が進む中で育っていったキャラ。そういうところが本当にかわいくて大好きだし、描いていて楽しいです。

Q.7:この物語に惹かれたのは「人からは分からないコンプレックス」でした。先生ご自身は、各キャラのコンプレックスについてどう思われますか?

板倉:小平さんのシニカルな思考も、塚田のようにクールを気取って人に冷たくしてしまった経験もかつて私にもあったし、味園さんのように怪物になったこともあります。

なので個々のコンプレックスについては、突き放すようなことはせず、理解できるものとして描いています。
挽回の余地はあると思っているし、自分を少しだけ変えて他人を理解しようする寛容さがあれば大丈夫だよ、という寄り添う気持ちですね。

よく、「優しいお話ですよね」と言ってもらえるのですが、私自身が身近な人にはそうでありたいと思っているからかな、と思います。

Q.8:キャラはビジュアルから決めるのですか? 見た目のモデルはいますか?

板倉:性格については先ほどお話ししましたが、見た目もモデルは特にいなくて。
キャラの設定を考えながら、同時に内面に合うような見た目を考えます。
これは各キャラの初期のビジュアル案です。

初期の鍵谷はずいぶん前髪が長くて目つきが悪いですね(笑)。

この前髪だと表情が分かりにくいので今の感じになりました。

まい子はほとんど変わっていないですね。

性格と同じで、例えばもう少し低年齢層向けの漫画であれば、もっと見た目に特徴をつけるのですが、まい子に関しては本当にそのへんに普通にいそうな人にしたくて、この髪型にしました。
主人公なのでピアスくらいはあったほうがいいかと思い、私がピアスを開けた直後だったのもあって、そこが特徴ですかね。

辻さんは初期案ではシュッとし過ぎで、ちょっと沢さん味(み)がありますね。

Mさんのアドバイスで「もっとタヌキっぽいかわいさを出そう」と少し派手にしたら今度はケバ過ぎてしまい、さらに直して今のビジュアルになりました。

理乃は今より髪が短いんですが、

これもМさんが「ワンナイトとかをする子にしてはとっつきにくそうだし、色気が足りなくないですかね?」ということで、今のかっこ良くてかわいい理乃になりました。

Q.9:まい子さんも鍵谷さんも内面にぴったりの髪型だと思いますが、他の髪型の候補はあったのでしょうか。まい子は美容院でトリートメントをしてそうで、鍵谷さんは自分で髪を切っていそうなイメージです(笑)。

板倉:まい子は決して丁寧な人間ではないので、たぶん美容院でトリートメントをしていないと思います。
案外ずぼらなんです。
鍵谷は自分で切ったらさすがにみっともなくなってしまうので、安めの床屋さんで切っていると思います。

12/15(金)12:00公開予定のトークショーレポその2に続く

テキスト/中島夕子

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。

ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら