お知らせ
2023/12/15
2023年10月22日(日)ブックファースト新宿店にて「瓜を破る」8巻発売を記念した、著者・板倉梓さんのトークショーが開催されました。
事前に参加者から寄せられた質問に板倉さんが答えるトークショーの内容をほぼ網羅したアーカイブ記事その2を公開します!
トークショーレポその1はこちら
Q.10:どんなアイデアから物語を作っていくのですか? プロットやネームに至るまでの制作の流れを知りたいです。
板倉:プロットというのは漫画で表現する内容を文字で説明した脚本のようなもの。
そのプロットを作る前に、担当編集Мさんと対面で5時間くらいかけて打ち合わせをして、4話分くらいの話の流れを決めます。
これは長瀞デートから38話までの打ち合わせメモの一部なんですが…
自分で用意したんですけど、急にお見せするのが恥ずかしくなってきちゃった(笑)。
ヘンなこと書いてないといいんだけど。
まあいいですよね、みなさんこれを土台に出来上がったものをもう読んでくれてるわけだから。
打ち合わせでは、感情の流れと、出来事の流れを決めていきます。
「ここでこうは思わないかな?」となったり、うまく流れが決まらないな、となったら納得できる流れができるまで話し合っていきます。
一番上に「ゴムが鍵谷の家にあったらどうしよ…」って書いてありますね(笑)。
こういうディテールも大事に描いている漫画なので、これは忘れずに入れようと思ってメモしています。
告白シーンは、鍵谷に「これから頑張ります」みたいなセリフを言わせるのは嫌だなと思って、「初めて欲が出た」という言い回しをこの段階で決めていますね。
メモを書いている段階で、私の頭の中ではもう映像が流れているので、それを今度はプロットに落とし込んでいきます。
(編集部注:会場ではプロットが一部紹介されていました)
私はプロットを気持ち悪いくらい詳細に、いわゆるト書まで書き込むタイプなんですが、これをしておくとその後に描くネーム(下画像)がすごくラクなんです。
なので最初の打ち合わせとプロットが重要ですね。
Q.11:キャラクターの表情を描くときに心がけていることはありますか?
板倉:これはMさんのアドバイスでもあるんですが、表情のインフレをさせないことを心がけています。
読む人を飽きさせず、「ここが大事なシーンなんだな」と伝わるように、ここぞというシーンでは表情をしっかり見せますが、それ以外のシーンでは見せなかったり。
あとはリアルさですね。
私の絵はすごく漫画っぽいし、デフォルメも多用するんですが、こういう真面目なシーンではリアルさを心がけています。
まい子に「私も好きです」と言われて、鍵谷がすぐににっこりしないのもその方がリアルかなと思って、この表情にしています。
Q.12:まい子・千里という名前の由来を知りたいです。
板倉:キャラの名前は名前辞典などは見ずに、イメージに合う名前が浮かぶまでひたすら書いては消し、考えます。
これは昔からどの作品でもそうですね。
まい子は名字にも柔らかさがあるといいなと思って「香」という漢字を使っています。
下の名前はあまり意味のある漢字を使いたくなかったので、「ひらがな+子」にしました。
今見てもすごくぴったりな名前だなと思っています。
鍵谷は…これはほんとにただのイメージなんですけど、「鍵」という字がどこか影を感じさせるのと、心に鍵をかけている…みたいなイメージもあってつけたのかな?
言われればそうかなっていうくらいなんですけど。
下の名前は中性的な名前にしたい、というのはありました。
一発で男性とわかるような名前じゃないほうがいいなと思って千里という名前に。
「里」という漢字は過去の作品の男性キャラ二人にもつけていて、彼らもやっぱり少し中性的なキャラでしたね。
あと原、辻󠄀、沢と一文字の名字が好きでつけがちかも。
Мさんがたまに沢さんと原くんを言い間違えますね(笑)。
Q.13:作中で想定外の人気が出た人物はいますか? 2話から登場する鍵谷は最初から登場する構想があったのでしょうか?
板倉:想定外の人気が出たのはやっぱり鍵谷なのかなと思いますが…。
でも鍵谷が人気出てびっくり!ということはないんです。
私は今まで自分の漫画で描いてきたどの男性キャラも好きだったのですが、男性読者さんが多かったこともあってなかなか私の描く男性キャラの魅力に気づいてもらえず…(笑)。
なので、今回鍵谷をみなさんに好きになってもらえてとても嬉しいです。
想定外だけど想定内、みたいな感じですね。
すでに話した通り、1話は読み切りだったのでこの時点で鍵谷は影も形もありません。
連載が決まってから生まれたキャラですので、2話からの登場になっていますね。
Q.14:鍵谷くんは先生の好きなタイプだったりしますか? また、鍵谷くんのキャラを設定する上での秘話があれば知りたいです。
板倉:私の好きな男性の最低条件は「自分の使った食器を自分で片付ける人」でして……。
…ここ、笑うところだと思ったんですけどあまりウケませんでしたね(笑)。
ということで今まで描いてきた男性キャラもその条件に当てはまっているし、当然鍵谷もそうなので、好きなタイプだと思います。
小平さんが鍵谷を「地味だし背も高くないし」と内心思っているのを読んだ読者の方から「鍵谷くん、イケメンだと思っていたのでショックです」とファンレターをいただいたことがあるのですが、鍵谷は…フツメンです(笑)。
でも、それは私がフツメンが好きだから。
瓜のイケメン枠はトウヤと原くんですね。
鍵谷の身長が168cmといわゆる女性向け漫画に出てくる男性より低めなのも、私がそれくらいの身長が好きだからです。
鍵谷の秘話としては、まい子と出会ったときの鍵谷が格ゲーをやっているんですけど、それは私が高校生のときに格ゲーにハマっていたことから。
当初、Мさんは「サバゲーとか面白いんじゃないですか?」と提案してくれたのですが、全然ピンと来なくて。
サバゲーって人との関わりも多いだろうし、私がサバゲーのこと全然わからないからどうしようかな、と考えていて、そうだ格ゲーにしよう!と。
結果的にゲーセンデート回がとても盛り上がったのでよかったですね。
あの回は、私がゲーセンで知らない人と対戦したり、友達が彼氏の格ゲープレイを隣に座って見ていたのなんかを思い出しながら描きました。
Q.15:鍵谷の初恋はまい子さんですか? 過去に気になる人はいたのでしょうか?
板倉:5巻の最後で「好きだ」と自覚するシーンがありますが、はっきり「好きだ」と自覚したのはもちろんまい子が初めてなので、初恋はまい子と言って差し支えないです。
ただ、鍵谷は作中で自分で言っていたようにチョロいので…女性にちょっとでも声をかけられたら気になっちゃったりはしてたと思います。
とはいえ中学校で同級生の女の子に声をかけられたときも、ちょっと気になるけどそれだけ。
相手にはいつの間にか彼氏ができているみたいな(笑)。
自分からは全然アクションを起こそうとも思わないタイプですね。
食堂のおばちゃんにちょっと優しくされても気になっちゃうと思います。
Q.16:キャラクターの服装やブランドのこだわりがあれば教えてください。鍵谷さんの靴は某バランスだと勝手に思っていますがモデルはありますか?
板倉:女性の内面を丁寧に描く作品なら、外見もその内面に合うように丁寧に描かねば!と決意して始めた漫画ですので、みなさんがファッションに注目してくれて、とても描きがいがあります。
私もファッションは大好きなので。
ただ…キャラのファッションは参考にしているブランドがありますが、価格は関係なくあくまでデザインを参考にしている、というだけです。
「まい子高い服買ってるな~年収どれくらいだ?」みたいな想像をされるのは本意ではないので、そこはご留意して聞いていただけたらと思います。
まい子はコンサバよりは少しモード寄りです、その方が絵的にも映えるので。
30代ですから甘くなり過ぎないようにしています。
参考にしているのはELENDEEK、UNITED TOKYO、ADAM ET ROPE'などです。
部屋着は鍵谷の前では可愛いワンピースですが、普段は適当なTシャツワンピを着ています。
味園さんはシンプルだけどトレンドも取り入れるタイプでUNITED ARROWS、辻󠄀さんは「最盛期でファッションが止まっている」など作中でディスられているので参考にしているブランドはオフレコにさせてください(笑)。
バッグはルイ・ヴィトンですね。
沢さんは裏設定として、高校のときギャルだったんです。
が、40代の今はTOMORROWLANDを着ています。
小平さんは私が若かったら着たかったなと思うMAISON SPECIALを参考にしていることが多いです。
色や形がとてもかわいいブランドで、小平さんみたいな子に似合いそうだなと。
あとHAREもよく参考にしているかな。
理乃は東京の実家住まいなんですけど、私の半径1メートル以内の東京の実家住まいの友達はみんな伊勢丹が好きなので(笑)、彼女も伊勢丹が大好きという設定。
STUDIOUSというセレクトショップの服もよく参考にしています。
靴やバッグはいいものを愛用しているイメージ。
東京のおしゃれな女の子です。
染井さんはブランドは特に決まっていなくて、若い頃はミニスカートも履いていたけど、今は体型を隠す服を選びがちです。
塚田は20代なので、まい子が着ない甘めの洋服で、SLYやSNIDELを参考にしています。
鍵谷はユニクロですが…でも鍵谷のファションにも私なりのこだわりがあって、いつも肩が落ち気味なオーバーサイズのシルエットのTシャツを着ています。
これはまあ偏見かもしれませんが、体のラインが出るぴたっとしたTシャツを着る人は自分に自信があるイメージがあるので、彼はオーバーサイズを選ぶかなと。
あと、鍵谷はまい子と会うときはデニムを履いてません。
笹団子の夜(3巻21話)は一人でゲーセンに行ったのでデニムを履いていましたが、鍵谷なりに調べて得た「女の人と会うときにデニムはNG」という情報をずっと信じており(笑)、まい子の前ではジャージー素材のちょっと高見えする、ユニクロのキレイめパンツを履いています。
靴はそうですね、ニューバランスのグレーをイメージしています。
Q.17:大好きなまい子になりきって過ごしたいです。何を意識したらいいですか?
板倉:なんてかわいい質問なんだろう(笑)。
まい子は先ほども言いましたが別に丁寧な暮らしをしている人間ではなく、TPOをわきまえてるだけなんです。
仕事のときはド派手はピアスなどはつけず少し大人しめの服装で、デートや友達と会うときにはちょっとオシャレを意識してかわいい洋服を選び、家で過ごすときは適当なパジャマを着て適当に過ごすタイプ。
その切り替えを無理にではなく、自然に楽しめると、まい子っぽく過ごせるかなと思います。
ちなみにまい子はローヒールの靴が多いですね、これも仕事やデートでハイヒールを履くと疲れてしまうので…やっぱりTPO(笑)。
12/22(金)12:00公開予定のトークショーレポその3に続く
テキスト/中島夕子